帰るべき家
(2008-08-02)
Lee Morgan(trumpet), Sonny Clark(piano), Doug Watkins(bass), Art Taylor(drums)
リー・モーガン入門にも、ジャズ入門にもうってつけの一枚だろう。全編通して本当に
すんなり耳に入ってきて、ホッと胸をなでおろすような出来栄えだ。ジャズを漁りに漁って
る人には、帰るべき家のようなそんな温かさがある。
心地よく甘美な「Candy」、ウキウキ弾む「C.T.A.]などいいが、やはり「All The Way」に
尽きるな。ここにモーガンの真髄、ジャズの真髄がある。普通に聞けば、なんだなんの変哲も
ないスローじゃないかという人もいるだろうが、ここでの気持ちの入り方は本当に素晴らしい
よ。彼の生涯多く残したバラッドの中でもベスト3には入るだろう。
そしてジャズの真髄といったのは、もともとジャズという音楽は技巧をひけらかすものじゃ
ないわけであって、それこそテクニックに酔いたいならウィントン・マルサリスでも聞けば
いいだろう。だが、それとてクラシック畑の人達にとれば鼻で笑う程度だけどね。ようは何
が大事かってことであって、クラシックという音楽は、元々全てを持ってる人がやり始める
訳で、そこで大事なのは技術なんだよな。何とか楽団なんて所にいる人種は楽譜さえ渡せば
何だってできるだよ。ただジャズはそうじゃない。ジャズは反対で何もない、金もない、物
もない、愛もない所から貪欲に開拓していった結果できたものだ。だから何が大事かというと
にじみでるような温もりと、包み込むような心地よさなんだ。ここでのモーガンからは、まさ
にそれがある。
ジャズに嵌って色々漁りまくった末や、日常の喧騒から逃れたい時に聴きたくなる一枚だ。
青春のトランペッター、リー・モーガンのメモリアルワンホーン・アルバム
(2008-03-22)
僕がジャズを聴き始めてすぐ、ジャズ・メッセンジャーズのレコードでリー・モーガンというやたらカッコイイ演奏をするトランペッターを知った。華麗でスリリングなソロはブルーで内向的なマイルスの対極のトランペットで、実によく楽器が鳴るテクニシャンというのが第一印象であった。しかし彼はまもなく(1972年)演奏中に銃で撃たれ、死んでしまったので、僕のなかでは現役のモーガンをほんのわずかしか知らないまま、文字通り青春時代の缶詰のような存在になってしまった。もちろん僕の青春時代という意味だけでなくモーガンの奏でる溌剌としたプレイが青春の輝きと危うさを感じさせたためである。モーガン唯一のワンホーンアルバムであるキャンディは、バイタルで瑞々しい感性を表現しつつも、20歳そこそこの若者の演奏とは思えない円熟した歌心あふれるフレーズが満載し、彼の天才ぶりを存分に見せ付けている。シンス・アイ・フェル・フォー・ユー、オール・ザ・ウェイで聞かせるスタンダードの解釈の見事さやパーソナリティでのリラックスしたバランスの取れたアドリブなど聴き所がいっぱいだ。ところでバックを務めるのがソニー・クラーク・トリオというのがもう一つの聴き所だが、クラークもまた若くして他界したハード・バップの哀愁をたたえた名ピアニストであることは言うまでもない。そういえばベースのダグ・ワトキンスのロリンズのサキ・コロで名をはせたが彼も夭逝した名手であった。
この時期のモーガンはドナルド・バードやまもなく登場したフレディ・ハバードといったポスト・クリフォード・ブラウンのトランペッターの中でも最もきらめいていたことは確かであろう。
トランペットのワン・ホーン・カルテットの傑作
(2007-10-08)
RVG Editionでのリイシュー。ピアノ・トリオをバックにワン・ホーン・カルテットというとアルトやテナーのサキソフォーンではよくありますが、トランペットというとあまりなく、むしろ希といってもいいくらいです。しかし、傑作は少なからずあります。ケニー・ドーハムの「Quiet Kenny」(Prestige)やブッカー・リトルのタイム盤など。このモーガンのCandyも傑作にあたります。タイトル曲での美しいトランペットのサウンド、All The Wayでのバラード解釈の素晴らしさなど、どのナンバーもモーガンの美しいトランペットを堪能できます。バックのクラークも彼の最も調子のいい時期でベスト・プレイで応えます。特にAll The Wayでのソロが素晴らしい。LP未収録だったボーナストラックのAll At Once You Love Herは収録曲中で最も速いテンポで演奏され、モーガンの華麗なテクニックを堪能できます。