ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
バッハの奥の奥まで (2008-05-11) グールドのトッカータBWV910-916の録音は1963年4月8日のBWV914に始まり、1979年6月12日のBMV915に終わっている。のべ16年間をかけての録音はおそらくはグールドの作品の中で最長だと思われる。レコーディングの順序で言うとBWV914→913→912・910同日→911・916同日→915の順となるが、最初のBWV914と次のBWV913の間が13年も開いているのであって、残りの6曲は約3年間で集中してレコーディングされたと言うこともできる。 なぜBWV914とBWV913の間を13年間も開けたのだろう。否、レコーディングしてはプレイバックし自らの演奏をチェックすることによって作品を残してきたグールドにしてみれば、解釈のレンジの一つとして1963年4月8日のBWV914を捨て去ることもできた筈である。グールドはそれをしなかった。つまりはBWV914を自らのトッカータとして『正』と肯定したのである。グールドの演奏を聴く時には常にこうした謎がつきまとう。 これらの曲はピアノのために作られたものではなく、クラーヴィア(チェンバロ)のための作品である。それをピアノの中でいかにバッハの意図を表現するかがグールドの生命線であった。そのために彼は多種多様なレコーディング・アプローチを繰り返し、多くの解釈を捨て去り残された1つの解釈としてアルバムを発表してきた。こういうピアニストは他にはいない。そしてバッハの奥の奥までレコーディングをしたピアニストもいないし、、今後も登場しないだろう。 そのスタンスとプロセスから生み出される『結果』としてのこのトッカータに僕は引き込まれるのだ。