まぎれもない名盤。10年後、20年後の評価も楽しみ。
(2008-07-06)
好き嫌いが別れ、これまでのアルバムに比べるとセールスが低かったために、このアルバムがある意味で失敗であるかのような評価もあったようですが、私はこのアルバムが彼女のこれまでのアルバム全ての中でも最も完成度の高い物であると思っています。彼女の作品の全てに言えるのですが、将来歴史に残るような、いつまでも聞き継がれていくような、そういった稀なアルバムの一つです。
他の方も言っていますが、今回のアルバムでは非常に私的な世界が描かれています。そして、いつもそうであるように、前回のアルバムと似たような曲が一曲もない。そのために、本当の良さが分かるまで何回か聞く必要がありますが、とにかく何回聞いても飽きないし、そのたびに新しいよさが分かる。ある意味で、良いジャズやクラッシックのアルバムのようです。
音楽的には、ストリングスや生楽器を多く取り入れてあり、曲作り自体も、少しクラッシック的(というかやはりポストロックなのでしょうね)でありながらやはりジャンル分けのできないこの人独特の音楽世界が繰り広げられます。その象徴は最後の「パッション」でしょう。最初PV見たときは、なんだこの音楽は、という感じですごく衝撃を受けました。その他の曲の中では、一生懸命生きる全ての人たち(彼女自身も含む)を応援する「Keep Tryin'」がお気に入りです。でもこの曲も最初聴いたときは、なんだろうこの曲は、とふしぎな気持ちになりました。とにかく曲が独特です。そしてコードネーム「しょっぱい味噌汁」で知られる「日曜の朝」。この曲にしても、ただの甘い日曜を描いた曲ではなく、詩の世界はこの人らしくかなり屈折しています。優しい気持ちの日曜の朝、そんな中にすら見え隠れする無常の思いが描かれます。天才と呼ばれる彼女を天才たらしめているもの、それがいつか消え行くものたちの儚さを見つめる目とそれを表現する音楽的な才能である、そんなことを確信させる一枚。そんな理由から一般向けでない、と思われたのかもしれないが、将来において、初期作品群の中で若き宇多田を代表する一枚としてきっと語られるであろうという名盤。
買って損はありません。
味わい深い1枚
(2008-06-19)
これは名作と言わざるを得ません。まずメッセージ性の強さに少しびっくりしました。サウンド的にも今までとは一味違う感じでなかにはとまどってしまう人もいるかもしれません。でもこれを聴けば彼女がただの商業主義ではないこと、歌を通して何かを伝えようとしてることがわかると思います。重い曲も何曲かあるもののクセになる1枚だと思います。
切なく、しかし生命力に溢れている。
(2008-06-02)
最近確かに涙脆くはなった。なったが。
自然に泣いてしまった歌は久しぶりだ。
歌詞だろうか曲調だろうか。
いや、やはり全て良い。
過去をリンクさせてとか泣かせる様な歌詞だから、では無く。
本当にごく自然にするっと心の隙間に寄り添うような。
そんな歌だから不覚にも涙を流してしまった。
心の琴線に触れてしまった。
「誰よりも幸せであってほしい
悲しみは似合わないよ君の目に
私を慈しむように
遠い過去の夏の日のピアノがまだ鳴ってるのに」
Making Loveより/宇多田ヒカル
彼女独特のエアポケット
(2008-04-04)
齢を重ねる毎に精神性が深まってきている宇多田作品ですが、その意味で今作の聴き所は後半に連ねるキャッチさを伴わない曲にみる趣深さでした。9「海路」などフラットな音型にこめられた心象をしなやかに鳴らす曲達。キャッチな曲は食いつきのよいメロディが先行しますが、こうしたキャッチさを狙わない曲ではその分だけ詞や音型に精神性を強く反映させられます。大人が楽しめる部分で中島みゆきらも使う表現ですし、他の若手女性歌手がなかなか表現してこないアーティスティックな領域が堪能できました。
その9のコンポジションは非常に儚く美しい魅力があります。淡々と続いてゆく音符一つ一つに乗せたことばが描く俯瞰した幻想は、この平坦な音型だからこそですし、内面的な影の表現が魅力の彼女ならではの世界・効用でした。わかりやすいだけの曲より、わかりにくい要素から聴き手の想像力が曲の姿を作りあげてゆく面白みです。こういうタッチはASKAや陽水、佐野ら先達の右脳と左脳を使う歌詞世界を思い出させます。
その9から音符が動き出す10「WINGS」への流れ方、更に川が海へ辿りつく様に感動的な11「Be My Last」が置かれたのは絶妙ですね。10はほぼ同じメロディを何度もループさせるのですが、これが奇妙な増幅感を呼びます。主題がコンポジションの力でゆっくりと舞い上がる体験がありました。11は表現者宇多田の魅力であり、又スターというのは皆そうですが、内面にどこか一箇所埋まらない溝の部分、ミッシング・ピースがあり、それを追い求める世界が表れたような儚い主題です。今作の流れの中で詞の発色がシングルより意義深くなっていました。12は間奏で13「Passion」へ。アルバム後半に漂っていた浮遊感を総括するようにポストロックの神秘的な曲想で時と心象が駆けてゆきます。この、詞のエアポケット感はただの失恋系ではない、彼女独特の空虚さがあるんです。
改めて聴いてください
(2008-04-02)
曲単体で聴くと物足りないところもあるけど、1枚通して聴くと心地よさを感じるほどの一体感を感じる。
シングル曲だけを見ると統一感はなさそうなのにアルバムの中では絶対欠かせないピースにさえ思えてくるのが不思議です。
宇多田のアルバムはいつもそうだけど聴けば聴くほど深みが増すなって思うけど、このアルバムは特にそうだと感じる。
是非3回は通して聴いて欲しい。