1972年、ヒップ・ホップはここに誕生す
(2008-10-25)
変貌と疾走を続けるマイルスの重要なターニング・ポイントが本作。バダル・ロイのタブラを筆頭に、すでに過去のジャズの要素はリズムの中にほとんど無く、当時のリスナーには認識すらできなかった『ヒップ・ホップ』という新しい音楽がこのアルバムで誕生している。24ビットでリマスターされたサウンドで今聴き直すと、なおさら本作の音楽史上における存在の意義がいかに大きいかを感じずにはいられない。
後のジャズの世界を担う重鎮たちは、ここでマイルスの音楽に対するあくなき変貌と疾走の実践をともに体験している。それがいかに後のジャズの世界に影響を残したか本当に計り知れないものがある。
マイルスのみならず、後の音楽の世界に多大な影響を与えた原子爆弾級の作品。『Black Satin』のDNAは今、まさに開花している。
街角で踊れ!
(2008-02-28)
初めてこのアルバムを聴いた時、何が何だかサッパリわからなかった。「ジャズの帝王」マイルスが、アフリカのリズムを延々と演奏しているのだから無理もない。しかし後にマイルスの軌跡を作品を追いながら辿ってみると、これがひとつの到達点だった事がわかる。
名作『Bitche's Brew』からスタートした70年代マイルスのテーマは「リズムの追求」だった。当時もうひとつの盛り上がりを見せていたフリー・ジャズは、肌の色を問わない空間でのジャズの解体だったと思うが、それに対してマイルスが出した回答は、敢えてブラックの血に限定させたアフリカン・リズムだったのだと思われる。リズムを打出すとなればそれに敵うものはない。「街角で踊れ!」と宣言したかのような徹底したリズムの探求は、究極のファンク・ミュージックを具現化させこの作品を生んだ。これは凄い作品であり、「ジャズの帝王」の看板を背負ったマイルス本人がこれを世に発表した事自体が何より凄い。以前このアルバムについて「リズムが勝ちすぎてメロディーとのバランスが悪い」などと評した評論家の戯言を読んだ事があったが、とんでもないお門違い。この作品の狙いは最初からそんな所にはなく、まさに狙った世界のド真ん中を射抜いた仕上がりなのだ。「街角で踊れ!」。それがこの時のマイルスの主張だったのだ。
“習作”が魔術で“名作”になっている、マイルスの恐ろしさ
(2008-02-06)
この時期のマイルスは、スライ・ストーンにも大きな影響を受けて、リズムに徹底的に凝っていく。
それが70年代半ばには完全に“もの”にされて、「アガルタ」「パンゲア」で頂点を迎える。
このアルバムには、計8つの曲名が書かれている。
よく聞けばわかるが、前半の4つは実は1つの曲で、後半4つは前の曲の別テイクだ。
これはプロデューサのテオ・マセロ(彼は元々映画のフィルム切りの名人であった)の録音テープのカットによる編集が可能にしたものだ。
テオのこの“魔術”を使って、マイルスはアルバムの音の出だしをわざとずらしているし、
完璧なセッションにわざと失敗したセッションを繋いでいたりする。
マイルスとしては初めてとも言える編集技術の巧みな利用だ。
その結果、新しいリズムによる新しい形式の音楽を模索していたマイルスの、70年代初頭を飾るこのアルバムは、本来“習作”であったのだが、
またまた計量・分析不可能な音楽に仕立て上げてしまって、“名作”になっている。
恐ろしい才能である。
リリースから20年経った90年代に、やっと評価され、
「ダンシング・ミュージック」「ヒップホップ」の原型音楽と今では言われるようになった。
このアルバムでは、マイルスはあまりトランペットを吹いてないが、
そのメロディはのちの「ダークメイガス」等々で聞けるものと同じだ。
魂から発せられる強烈なグルーヴ!!
(2007-02-17)
アルバムを出すごとに良くも悪くも物議を醸したマイルスですが、発売時どんな評判だったろう、ジャズの評論家のセンセイ方はきっとボロクソに言ったのかな…なんて思いも馳せながら、ソウル/ファンクに傾倒していた時期での最高傑作であり、多くのマイルスの作品でも現在に至る音楽そのものの流れを大きく動かしたであろうという意味で、私が聴いたマイルスの作品の中でも最高のものではないかと考えてます。
腰、体、魂から発せられるグルーヴに身を任せさえすれば、至福の時間まで乗っけていってくれる、ブラック・ミュージックの集大成的な作品。必聴!!
ファンク!ファンク!ファンク!
(2006-09-15)
当時のジャズ関係記事を見ると、「オン・ザ・コーナー」に関しては、「マイルスのソロが全く入っていない」ということでダメだしが多数ありました。いうまでもなく、オン・ザ・コーナーはソロリレーを聴く作品ではなく、ジャズ的なソロリレーから完全に離れたファンクサウンドですから、それがジャズ的な意味でダメだというのならば、ある意味で正しい評価ではあります。
マイルスのソロという意味では、ライブ盤の「イン・コンサート」でたっぷり聴けますので、こっちのほうが評判がよかったようです。
そして、来日公演前のジャズ雑誌の記事によると「オン・ザ・コーナーが賛否両論だったにも関わらずマイルスの公演チケットはあっという間に完売して、関係者を驚かせた」ということでした。
実はジャズ関係者は全く分かっていなかったのか、あえて黙殺したのかだと思いますが、この頃からマイルスのファン層は、ジャズではなく、ロック方面からの流入が増えてきたからこそ早々に完売だったのです。
推測ですが、当時のロック喫茶でも、この「オン・ザ・コーナー」はかけられていたのではないかと思います。
30年以上も世代を越えて聴かれている「オン・ザ・コーナー」は、賞賛の言葉も出尽くした感がありますが、デジョネットのドラミング・リズムパターンは本当に凄いです。
チャカチャカチャカチャカチャ!・・バシッ!ドバドン! チャカチャ!とかいう変態リズムが延々続く様子はいつ聴いても快感です。