義太夫好きの法楽
(2005-05-21)
引窓が面白い。
先代綱大夫、越路大夫、当代住大夫と、山城門下の俊英はいくたりかあり、それぞれ師の美質を受け継いでいる。
しかし、「院本の合理的解釈とそれに基づく近代的心理描写」という山城浄瑠璃の一大特質を受け継いだのは、実は越路大夫だけのような気がする。
それ故に引窓のような心理描写が物を言う浄瑠璃は越路の独壇場だ(いや勿論山城がそもそも得意にしてたわけですが)。
出世のチャンスを諦め切れず愚図愚図していた与兵衛が最後にとうとう長五郎を見逃す決心をする、その「恩に着ずとも勝手においきゃれ」とう詞が颯爽として気持ちがいい。
そして先代喜左衛門の三味線。
純文楽系統の手数の少ない地味な三味線ながら、その分一つ一つの音が粒だって本当に美しい。この二人の芸が相まって、段切りの面白いことと言ったら無い。
NHKの放送用音源で(故に音は悪い)これが初リリースだそうだが、良くぞこれを発掘してくれたと関係者に拍手を送りたい。
他に、同じく初出の封印切、新口村も聴き応え十分。袖萩祭文とその元ネタの一つである伏見の里の両方が収録されているのも面白い。
義太夫好きはたっぷり楽しめます。
本物の芸
(2005-01-23)
そもそも文楽に衝撃を受けのめり込むきっかけは、たまたまNHK教育で、越路大夫と喜左衛門の加賀見山旧錦絵の長局の段を、見るともなく見始めたときだったことをはっきりと覚えています。昭和46年頃だったでしょうか。この選集でも、その時期の演目が中心で、当時の気迫のこもった油の乗り切った義太夫が聞けます。特に当時は封印切(収録)のような近松物は独壇場だったのではないでしょうか。今後可能性があれば、個人的には加賀見山の長局の段の収録を望みます。初めて越路さんの仮名手本忠臣蔵六段目を聴きましたが、やはり綱大夫のものがいいかな、と思いました。
最後の名人
(2003-03-02)
いまも義太夫は聞けるが、明治以来の趣きを感じさせる芸はこの四代越路大夫で終わりだろう。昭和30~40代に女房役の二代喜左衛門とともに録音した名人芸である。義太夫好きには必携の逸品である。
内容は、野崎村、酒屋、吉田屋、壺坂、新口村、引窓、封印切、伏見の里(烏帽子折孛源氏、つばめ大夫時代で初出)、寺子屋、袖萩祭文、勘平腹切の11曲。どれも登場人物の語り分けが細やかで特に世話物がよい。新口村は曲としては駄作だと思っていたが、彼らで聞くと情景がまざまざと思い浮かび、孫右衛門の心情が思いやられる。