ソツがなく保存版に向いた編集
(2003-01-15)
収録作品は四つ。マッケンの連作集的な代表作『三人の詐欺師』と『内奥の光』『輝く金字塔』の三作品には、彼の分身とも見える有閑人ダイスンが出会うことになる、ロンドンの裏小路に潜む怪奇が描かれている。『パンの大神』は魔との交わりの結果を描いた古典的作品で、いずれも彼の汚穢の秘史ものに属する傑作である。
この本はクトゥルーシリーズの一冊として出されたもので、ファンならば確かにノーデンスやアクロ文字等、神話体系に於いて重要な位置を占める幾つものタームを見い出すことが出来よう。だが現在の水増しされた無数の亜流の祖として見るよりも、それらとは別個の宇宙的恐怖を綴った独立した作品群として先ず見るべきではなかろうか。マッケンの描く世界の裏面は、宇宙論的と云うよりか民俗学的であり、飽く迄基本的に傍観者の立場にいる主人公の言動は、或いはやや呑気とも見えるデカダンの香りに満ちている。それはラヴクラフトや彼の同時代人には既に描くことの出来なかった、大戦前のコズミックな感覚なのである。
本邦では既に平井呈一による名調子の訳が出ているが、そこから受ける印象は、ともするとアクが強過ぎて元の文章にあった几帳面な感じとは別のものになりがちである。機会があれば是非原文の方にも当たられたい。