愚行の輪
(2008-11-17)
1:
けばけばしく、騒々しく、所々に笑いを落とし、最後迄一気に見せる佳作。
2:
美しく、切なく、悲しく、そして愛しい松子。
松子は自分が愛したいから愛し、相手が自分からの愛が不要な時があるとは考えたことさえないジコチュー。だから男を愛せば愛する程、男から嫌われ、自分が傷つく。そして愛を注ぐ男を見つけ同じ事を繰り返す。正に「愚行の輪」。
引きこもり、健康に無頓着になり体があれだけ肥厚肥大すれば、若い頃の美声を失ってもおかしくない。
だが演出で声を変えなかったのは、自分の行為と愛情を疑わぬ純粋さが松子にあり、それを歌の巧さと声で表したかったのだろう。
そしてこの松子を中谷美紀が無理無く演じている。
3:
松子の切なさと愛しさは勿論中谷の演技のおかげだが、それを引き立ててるのが松子の死の場面。大変衝撃的であり、ありうる事で、松子の年齢と経歴を考えると、ある意味、因果応報。
4:
太宰かぶれの八女川を演じたクドカン、さすがと言うべきか、一般的に想像されるその「テ」の人を具現してる。
5:
松子と心中しようとする龍洋一、睡眠薬(らしき物)を吐き出す間合いが素晴らしい。
演ずるは伊勢谷友介、中島監督が喜劇の才があると言うのも納得行く。
6:
この映画を愛しくしているのは脚本と演出のおかげ。もう一つは中谷美紀、名優。
7:
だがこの映画には一つ大きな欠点がある。なぜ松子の愛した男達が松子に暴力を振るうのか、理由が描かれていない。
フェリーニの『道』でジュリエッタ・マシーナが見せた怯えた瞳なら暴力衝動を解き放つのも分かるが、この映画には演出も演技も無い。
また柴咲コウ演じる明日香は必要か?柴咲ファンとしては嬉しいが『セカチュウ』の時と同じでSDPだから出たのでは?
故に減星一
日本の映画で一番好きかも。。
(2008-07-23)
CMがおもしろかった。下妻のノリと似てるんだろう。そんな簡単な気持ちで観たこの映画。いい意味で裏切られました。映画館でぼろぼろ泣いてしまいました(笑)何かを得そうなのにどこかで歯車がずれてしまい、転落人生を歩んだ松子。とんでもなく暗い話ですが音楽や映像でうまくカバーしています。でもラストシーンは何度観ても涙、涙、涙。そしてまた観たくなります。万人にお薦めできる作品ではありませんが少なくとも私には生涯の一本と思えるくらいすばらしい映画でした。
場外格闘も話題になった映像力の作品
(2008-04-26)
中島監督と中谷美紀の場外バトルも大いに話題となった作品。タイトルバックがまんま「風と共に去りぬ」で、ミュージカルの場面は「オズの魔法使」。映画としての完成度は満点とは言い難いが、少なくとも映像力の持つパワフルさは言うことなしである。これはやはり広告的なカット割りが原点にあるので、観ている我々もその映像感覚に慣れていることが大きい。松子の人生はある意味とてもマンガチックであり、父親や妹への思いも深く語られず、みなミュージカルシーンのなかで「理解」しなければならないので、全体的に「軽い」感じになった。そもそも本作はお涙頂戴でも深刻でもなく、ノリで見せる映画である。中谷美紀も決してまっとうではない脚本を相手に大変だったろうと思うが、さすがの演技であり、また伊勢谷友介のみ一貫してシリアスさで場面をさらっていた。「感動大作」の類ではないが、パワフルさでは近年まれに見る良作といえる。
一途でまっすぐで華やかで切なくて
(2008-04-17)
松子の人生は『父親に愛されたい』その一心で動いている
教師から風俗嬢に転落しても男性に対する愛情は一途でまっすぐでもどんな人といても松子の空虚感が増すばかり映画自体が華やかだか切ない
同じ兄弟の弟にも見離されても自分の道を生きてゆくしかない
父親の愛情が欲しい
まっすぐで華やかで一途でせつないそして不器用な 涙が出る至極の映画です
小説はどうでもいい、ただし、映画は見るべし
(2008-03-15)
原作を超える映画は存在しない。そんな常識をぶち破って見せたのがこの一本。
この映画、本質的に登場人物は三人だけ。
すなわち、松子と妹と父。
なりたい存在、なれない存在としての病弱な妹。
世界を象徴する抑圧主体としての父。
聖職者から性職者へ、はたまた犯罪者へ。
愛を欲してさまざまな男とめぐり合う松子、だが、それはみな、父が別の仮面を被って
現れた姿でしかない。その父に愛されたくて、しかし、その愛は得られない、父の愛はすべて
妹へと注がれる。愛なきゆえの人格的機能不全を表現する、カメラを前にした奇怪な表情。
流転の末、帰郷した松子は父と妹が既に死に伏したことを知らされる。そしてもうひとつ、
彼らの松子への思いも。二人を喪失した瞬間に彼女の時間は止まる。
人格はすべて抑圧と引き換えに与えられる。郷里の風景とよく似た川辺のアパートで、
世間から遮断された空白の時を過ごし、その果てに死するべくして死す。
クライマックス、「おかえり」のひとことは必然にして圧巻。
どうしようもない原作本からここまでの名作を仕立てた中島監督の技量がとにかくお見事。