脚本・撮影・演技―全ていぶし銀の名作
(2008-06-09)
“ヴェラ・ドレイク”はここ10年間の英語圏の映画の中では一番好きです。 有名スターも出ていないし、特に目を惹く新しいテーマが語られているわけでもないのですが、少なくとも20歳以上の観客なら好き嫌いはともかく、話が進むにつれて思わず画面に釘付けになってしまうくらい、映画としてのトータルな質が高いと思います。
主演のイメルダ・スタウトンはじめ役者さんたち全員が、演技というよりも本当にこんな人達なのでは?と、思うくらいその役にぴったりはまっています。 エセル役のアレックス・ケリーなどは本当にイメルダの娘なのではないかと思えるくらい雰囲気が似ています。 役作りとはこういうことなんだ!と感嘆してしまいました。 ただ、あれだけのことを敢行してしまったヴェラの行動の動機(過去)はなんだったのかがいまいち不明なのですが(劇中ではそれに端的に触れている箇所がありますが、はっきりした回答は与えられていません)、監督はこれで良しと言い切っているので、そこは割り切って見るべきなのでしょう。
私がこの作品で特に印象深かったのは、お祝いの席に警官がやって来たときのヴェラの顔のクローズ・アップなのですが、特典のイメルダ・スタウトンへのインタビューによると、この場面は、もともとパーティのシーンだけの撮影だと思っていたところに警官がやって来て、そのとき99.9%ヴェラになりきっていたスタウトンは、本当に頭の中が真っ白になってしまい、そこを撮られてしまったのだと言っています。 本当にそんなことがー?と、疑ってしまうのですが、それぐらい印象的なショットである事は事実。 なにはともあれ、一見の価値ありの名作だと思います。
いろいろ考えさせられる映画だった
(2008-04-17)
イメルダ・スタウントンが素晴らしい!
演技を越えたようなリアリティ、
その存在感、ただ者ではなかった。
自然な人間像、リアルな生活感、
作り物の世界とは思えなかった。
善意でしたことが罪に問われてしまう。
もし私がヴェラだったら、
きっと同じ過ちを犯したと思う。
最後に家族が示す、彼女への理解か゛
この物語の救いに思えた。
キリスト教のこと、人工中絶のこと、
いろいろ考えさせられる映画だった。
作品としての質は高いが・・・
(2008-03-18)
カメラワークや俳優の演技など、作品の質はかなり高かったです。
ですが肝心のストーリーが弱い気がしました。
作品を観終わっても、結局何が伝えたかったのかが分からないのです。
「法律的には悪い事だけどこれは本当に悪い事なのか?」と伝えたかったとすれば、
ストーリーをもっとそのテーマに沿ったものにするべきですし、
他の事を伝えたかったとすれば、それは何も伝わってこなかったので監督の技量不足と言えます。
結局テーマが終始ぶれていて、明確なテーマが決まっていないんですよね・・・・・・。
ストーリーだけだと星2つですが、質の高さを考慮して星3つです。
今の時代にこのテーマを扱った理由
(2007-06-11)
まず観終わって思うのは、「何故今の時代にこのテーマを選んだのか・・?」というところでしょう。
ヴェラが堕胎をしてやった女の中には、子供が多くなりすぎてもう養えないという貧しい母親や、レイプされた女などもいます。
今の時代の考え方からすれば、ヴェラのしたことは無免許であるということ以外そう悪いことではないように思えます。(リスクはあっても)
実際、避妊もそう発達していなかった時代で、望まぬ妊娠というのは数多くあったでしょう。
それなのに法では一方的に禁止し、保護は一切ありません。
優しくとて弱い人間であり、ただ人を助けたかっただけのヴェラが裁判にかけられる姿はとても悲しいです!
ただ普通に見ると、一見不条理な時代を描いたかのように思えるこの映画ですが、
この映画を作った人は「中絶反対なんじゃ・・?」と感じる人も多いと思います。
それは話の流れなどで多々感じられるものであり、
そういう意味では、なんだかとても、安易な性交や妊娠が一般化した“現代において意味深な映画”だな…と。
人のいい母親を愛していた夫や家族たちの真相を知った後のそれぞれの心情や態度も、実にみものです。
デリケートな問題を扱いつつ、時代の非情や、人物たちの表情を繊細に描いてる素晴らしい映画でした。
ただ、やはり中絶問題の話ですから、それなりの興味がないと、ストーリーとしては面白みを感じられないかもしれません。
黒か白しかない人々
(2007-05-13)
人助けのために堕胎に手を貸していたヴェラ・ドレイク。困っている人を見ると放っておけない親切なヴェラは片時も手を休めない。働き者のヴェラは家族からも愛され、貧しいながらも幸せな生活を送っていた。
ところが、簡便な堕胎施術が原因である娘が死にかけたことから、善意の人ヴェラは警察に逮捕されてしまう。本作品の中で、裁判の判決を受けるまでの家族の葛藤が、英国らしい重厚感漂う映像で描かれている。
母親ヴェラの罪を受け入れられない息子シドを「あいつは黒か白しかない。若いからな」と評す夫スタンの言葉はとても印象的だ。保釈中のヴェラを囲むクリスマスの席で、チョコを食べる人と食べない人で色分けしてみせたシーンは、マイク・リー監督らしい見事な演出である。
どうも世の中エリートと呼ばれる権威志向の人々ほど、白黒をはっきりさせたがる傾向が強いようだ。負け組をハッキリ色分けしないと、自らの優位性を確認できないかのような傍若無人な振る舞いに見えてならない。しかし、白と黒では分けられないグレーゾーンが世の中には不可避的に存在する。自分ならヴェラの差し出すチョコを喜んでいただくが、この映画を観たあなたはいかがですか?