監督としてのイーストウッドはこれを見ずして語れない。
(2007-07-27)
硫黄島と星条旗の2作品により、クリント・イーストウッドの監督としての評価は最高点に達したと思うが、この作品で、彼の監督としての実力が如何なく発揮されたと言えるだろう。
前半の女性ボクサーの栄光と後半の過酷な人生。そして、トレナーに迫る苦悩の選択。この映画は、女性ボクサーと老トレーナーの崇高なラブストーリーであり、生きる意味を問う映画でもある。
ラストのトレナーの苦悩の選択は誰も否定できないだろう。全編に流れる悲しげな調べとリングネームに全てが集約されているように感じた。この作品を観ずして監督イーストウッドは語れない。
イーストウッドの描く「アメリカンドリーム」
(2007-05-17)
不器用な老トレーナーと女性ボクサーの栄光、そしてその後の人生の選択を描くクリントイーストウッド監督・主演のアカデミー作品受賞作。
物語は終始「先が見えない不安」を煽るようなダークな雰囲気が支配しています。前半は女性ボクサーが栄光を掴むサクセスストーリーといって良いかもしれませんが、それでも登場人物達は常に何がしかの心の葛藤を抱えているのが特徴です。
そして、多くの方が書かれているように、この映画は前半と後半とでは全く物語の様相が異なります。ただし前半部分は、あくまで後半からの展開の長い前フリだと捉えた方がいいでしょう。こういった展開は評価が分かれると思いますが、個人的には上手くいってると思います。前半の展開が無ければ、後半の重大な局面で、あそこまで切なく切羽詰った選択の意義を伝えることはできなかったのではないでしょうか。
監督のイーストウッドはこの作品について「自分なりのアメリカンドリーム観」だと語ったそうです。発言が真意だとすれば、監督は人生をなんと冷静(冷酷)に捉えるいるのかと驚きました。
ハッピーな映画ではないし、女性のプロボクシングというジャンルも、日本では馴染み薄いのでなかなか興味をそそられないかもしれませんが、見ごたえある深い人間ドラマを観たい方にはお薦めです。見た後にやり切れない余韻が残ること確実。アカデミー受賞の冠は伊達ではないと思いました。
観客の感情移入を拒否する中立性
(2007-04-21)
「許されざる者」、「ミスティックリバー」、本作品、そして「硫黄島からの手紙」。C・イーストウッドの作品を見続けていて、最近になってようやく気づいたことがある。この4作品を見終わると、必ずといっていいほど、どこか釈然としない中途半端な感情に襲われるのだ。善と悪のどちらかに感情移入(悪の方に肩入れする人はあまりいないと思うが)しようとすると、必ずそれを拒否させるシークエンスをイーストウッドは必ず最後にもってくる。根がひねくれ者の自分は、今までその観客の思い込みを拒絶する部分にのみ過剰に反応してしまい、彼の作品をイマイチ好きになることができなかった。
しかし、「硫黄島からの手紙」が神経質なほど歴史的中立性を気にして作られていることがわかってからというもの、自分のC・イーストウッドに対する見方が少し変わってきた。人間には善も悪もない。第3者の勝手な思い込みによって、善と悪のどちらかに加担する行為ほど危険かつ馬鹿げたことはない。監督はあくまでも中立的な立場から、善と悪の両面を観客に見せ、判断を観客にゆだねているのだ。
本作品においても、苦労人女ボクサー=マギー(H・スワンク)と老トレーナー=フランキー(C・イーストウッド)に感情移入してしまい、判定を優位にしたがる審判(観客)が圧倒的に多いにちがいない。しかし、意地の悪い監督はとっておきのラストシーンを見せることによって、「ちょっと待てよ。それでいいわけ」という疑問を観客に起こさせる。この中立的立場に観客を引き戻すことこそが、イーストウッドの映画作りにおける真の狙いのような気がしてならない。一見単純そうな作品の中に永久に答えの出ない重い命題を隠しているC・イーストウッドは、やはり“ダーティ”な男である。
クリント・イーストウッドはすごい
(2007-01-22)
身内が殺されるまで、恋愛映画が一番すきだった。
でも、今はこういう映画をよく見る。
許されざるもの、ミスティックリバー、そしてこの映画。
救いのない話なのに、見た後すごく救われた。
運命の理不尽に遭遇したときに経験する異次元の
感覚、思いがきっちりと描かれているからだと思う。
あの時から今も抱えているあの感覚を、
イーストウッドの映画は受けとめてくれる。
それだけで私には十分ありがたい。
作り込みが甘い
(2006-10-30)
この映画の拙い演出方法では、フランキー(クリント・イーストウッド)が彼女を殺すことはできません。映画は1つの世界を形成しており、観客に観られることを前提としているわけですから、殺すに足るだけのものをきちんと表現する必要があります。そうでなければ、独り善がりのロマンチシズムを公の場でさらすな、と言われても仕方ないでしょう。
この手の話を撮るわりには、作り込みが甘い。前半はまずまずだったのですが、後半は、時間と予算に追われたのか知りませんが、脚本、監督、編集の努力不足を感じました。