哀愁と優しさに満ちた時代劇
(2007-11-14)
日本に存在する著名な各映画賞を総ナメにした、山田洋次監督の初時代劇作品。
時代性の捕らえ方、2時間という上映時間の中での起承転結、老若男女問わずの分かり易さなど、ハリウッドやアニメにばかり目が向きがちな邦画界の面々は、括目して山田技法を学ぶべし!
物語の舞台は、幕末の東北の小藩「海坂藩」(モデルは米沢藩らしい)。
そこで平侍として暮らす井口清兵衛は、労咳で妻を亡くし、幼い二人の娘と、ボケの始まった母親と4人で暮らしている。生活の貧しさから内職に勤しむ必要もあって、清兵衛は毎日勤めを終えると、同僚からの遊びの誘いも断って、家路につく生活を送っていた。そんな彼の事を、同僚は「たそがれ殿」と呼び、変わり者扱いしていた‥‥‥。
こんな武士が本当に居たのかどうか、その資料の少なさから定かではないようですが、外見の貧しさがすなわち、内面の貧しさではないという一本の筋が、ヒシヒシと伝わります。そして、清兵衛の幼馴染・朋江が登場し、山田監督お得意の、純粋過ぎる位に純な恋愛模様が描かれます。
個人的には、宮沢りえという女優は余り好きではないのですが、それは私の色眼鏡の度合いが強過ぎるだけで、可憐で優しく芯がある朋江像を、良く演じていたのではないでしょうか。惜しむらくは、ラストの泣き崩れるシーンとか、ね。この辺がもう一段、上手い演技だと感動の度合いが増すんですけど‥‥‥。
各映画賞の新人賞を多数獲得した、これが映画初出演とは思えない、前衛舞踏家・田中泯氏の演技が、実に素晴らしい。一見すれば、怖さとか不気味さが目に付く役柄なのですが、そんな風に一括りに出来ないような哀愁が、その立ち居振舞いから溢れています。清兵衛との死闘一連と、その結末における一人芝居は、本職:前衛舞踏家の面目躍如たる顔が見えたような気がします。
そしてそれをわざとらしい芝居に見えないよう、実にリアルな演出で彩った、殺陣シーンが初撮影とは思えないような山田監督にも、拍手を贈りたいですね。
画はビスタサイズのスクイーズ収録。昨今の映画はCGが溢れ、デジタル編集が可能なハイビジョンカメラなどで撮影されていますが、本作品を見て「フィルムは良い!」と感嘆の声を上げてしまいました。
本作もCGにて作成された場面は当然存在しますので、何らかのデジタル処理が施されているとは思うのですが、画面の落ち着きというか、空気感を伴う細部のぼやけ方が、やっぱりCGはCGであって、フィルムには敵わないなぁと感じました。
この映画は明暗のコントラスト、特に中間の色合いがポイントです。
音は、DD5.1ch、DTS5.1ch、DD2.0chの三つを収録。
音場感や低音感、そしていつも気になるDD5.1chとDD2.0chが両方収録されているソフトにありがちな、DD2.0chの収録音量の絶対値が、DD5.1chよりも低く聞こえる(ボリューム位置を固定したまま、音声をDD5.1ch→DD2.0chに切り替えると、スッと音が小さくなる)現象がなかったので、DD2.0chの方がより自然な音と感じました。
生活描写の各種SEなど、サラウンドの使い方も上品で、腰の据わった印象です。
貧乏ざむらい
(2006-12-25)
真田広之主演です。宮沢りえが後添えとして出ています。山形県庄内藩が舞台です。学問もあり、剣にも優れているが、認知症の母と娘2人を抱え、妻には先立たれ、石高も少なく貧しいけれども、満ち足りた生活を送っている武士の話です。この武士の生き方が心を動かされるものがあります。それが、家老の命令で、ある人を斬りに行かなくはいけなくなります。断るのですが、武士社会で断れず、斬りに行くことになります。このときの相手も、武士社会の犠牲者みたいな人間でそんな2人が切り合うシーンはジーンと来ます。武士社会の話ですが、現代のサラリーマンや官僚社会の問題と同じテーマがはめ込まれています。とても面白く、社会的な寓意を含んだ映画でした。
幕末武士の悲哀
(2006-12-22)
武士とは様々な映画・ドラマのように格好良いものではなく、武士間の身分の違い、主命に嫌とは言えぬ宮使いの苦悩の中で細々と生きている姿を見事に活写している大傑作である。
主人公の清兵衛は、月代も剃らぬ、風呂にも満足に入れぬ、虫かごの内職をしなければ幼い2人の娘や年老いた母の生活を賄えない程の昼行灯で貧乏侍。
しかし、一度剣を抜けば天下一流の使い手。
やはり身分の違いから恋する女性と結ばれぬ悲恋、主命による上意討ちをしなければならぬ清兵衛。
そしてラストの愛する女性との再会と、清兵衛の満ち足りた人生を回顧する娘。
見終わった後に感動と清清しさを得ることのできる、日本映画屈指の傑作である。
ある意味、幕末武士の実写化としても秀逸の作品
(2006-03-22)
幕末の下級武士は飯が食べられなくて、腰の物を質に出すことは日常的な光景だったようです。
その情けない役所”井口清兵衛”を真田広之が演じます。
男の哀愁を描くことに関しては、山田洋次監督は多々こなしてきたように思われていますが、この作品がベストと言っても良いくらいの仕上がりです。
真田広之をキャスティングしたことが一番の功績とも思えます。 殺陣が良く、彼の実戦的な剣裁きはとても見応えがあります。 彼が現俳優の中で一番の剣客俳優だと断言しても良いでしょう。 彼はアクション俳優出身なだけに、派手な立ち回りばかりを連想されがちですが、たしかに役者魂が熱く、他技に関しても非常に努力家だそうで普段から剣の稽古をしているそうで、その腕前は某流派の免許皆伝級だとか。。。(凄)
消え行くサムライ
(2006-02-23)
武士を描く作品はとても多い。しかし日本人の大半は町人や農民であり、武士の思想を持っているものはとても少ないといえるだろう。たぶんかっこ悪く、民衆の思想に関する資料が少ないせいだろうと思う。この作品は、貧しい下級武士の私生活をつぶさに取り上げ、とても親しみ深く観ることができる。清兵衛はご大身に嫁いだ幼馴染が出戻ったのだが娶る生活力はない。出世の機会をつかんで再縁するが、どうも不評らしいラストは、つかの間の幸せしか得られない武士のさだめを示し、侍の厳しさを伝えている。見所は真田浩之演ずる清兵衛のどこかこっけいな貧乏暮らしと、上司の命令に逆らえない昼行灯の辛さ、サムライ同士の対決といったところか。