晩秋にゆっくりと御覧あれ
(2007-08-29)
異界と日常をひとつの電話ボックスがつなぐという設定で、ファンタジー仕様なのだが、一人称、独白的な不思議な雰囲気を持ったドラマになっている。
過去と現在を交差し彷徨う、峰岸徹演じる中年サラリーマンが、どうにも「なごり雪」での主人公につながるようにみえた。
古い電話ボックスから、つながる過去は30年前。これも「なごり雪」に近いし、そこには高校時代の親友と、思いを寄せる同級生の「幸(さち)」という名の女の子がいる。そう、幸は、「ゆき」とも読める。いわば、宿命的な三角関係の力学がここにもある。
過去とつながる古い電話というのは、かなりわくわくする発想で、物語のトーンが決定するほどのアイデア。
くたびれた中年サラリーマンが、もっとも心ときめかせた日々の蘇り。それゆえの悲しさや切なさ、過去へつながる電話に語りかける峰岸さんが、今までにない哀しさを漂わせていていい。
また大人になって、いつか封印した記憶の本当の意味、過去を変えることの怖さ、そういったクライマックスも見どころ。
「あの夏の日」の勝野雅奈恵ちゃんが、繊細な魅力の女学生を演じ、脇役だがソフトな表情を見せてくれた裕木奈江さん、彼女はちゃんと現実の上にいるのだが、どこか不思議で柔らかな存在でもある。
過去の甘美でありながら悲痛でもある記憶。それが物語ではファンタジーとしてよみがえりながらも、現代という時間と改めて対峙するところなども「なごり雪」へと通じるものがある。
しかし「告別」では救いとして、帰る場所としての夫婦と家庭、それが健全に再生する方へと用意されているのがドラマとしては幸福だろうか。
舞台になる長野にある地、それがこの独特なファンタジーを支え、ここちよい田舎の風景と、映画「姉妹坂」でも使われたリストのピアノ曲「ため息」が、ゆったりと物語を包み込んでいる。
よわいこころ
(2004-11-24)
現実の生活に疲れて,日々まったくさえない自分に,心がめっきり弱くなると,物語の世界に慰安を求めたくなる。
「おれだって,好きで疲れたオジサンになったわけじゃないんだけどな。」
北陸の小さい街の小さな会社。腕の悪い営業マンである主人公は,車で田舎道を走りながらつぶやく。
ほんとうの自分は,もっと別な世界で,憧れていた女性と幸せな家庭をもって,生き生きと暮らしているのではないだろうか。そんな想念にみたされていく。恋というには淡すぎた想いが,少女の面影が,まぶしく誘いかける。
あまやかな夢の世界で眠りつづけたい。そのまま死んでもいい。
あやういところで,主人公が踏みとどまったのは,ノスタルジーではなくて,貧しげにみえる現実世界の,ささやかないたわりあいのほうを,選んだからだ。きっとこれからも,幾度となく岐路に立つのではないか。
眠ってはいけない。眠ってしまいたい。疲れたときには胸にこたえる作品だ。
告別
(2004-02-05)
電話をしたら30年前に死んだ恋人のところにつながる。ラストで未来を変えるためにあることをするけど(ネタバレになるので秘密)、今の家族との間で揺れ動く主人公の気持ちが手に取るようにわかった。峰岸徹が好演でした。
役者さんたちが魅力的
(2003-10-19)
本作品で特に印象に残ったのが役者さんたちです。裕木奈江氏がとても
いい感じでしたし、長木唯嬢(主人公の娘役)が説得力ある存在でした。
もちろん、主演の峰岸徹氏もしっくり来ました。
1993年以降の大林宣彦監督作品では久しぶりにしっくり来た作品でした。
青春の思い出
(2002-09-10)
青春の中の思い出と現実の生活の選択が可能であるならばどちらを
選ぶでしょうか。ましてやそれが人生の伴侶を決める決定的な選択
であるならば・・・。
思い出は美しく,過去をやり直したいと願う気持ちは誰にもある
でしょう。しかし思い出は思い出であるから美しく,現実を捨て
去ることはなかなかできないことです。
それゆえ,苦しくとも,その過去からつながるこの来た道を重く
とも前を向いて歩み続ける勇気が必要なのでしょう。